夢を見た。
誰かが画面越しに話しかけている。
いや、ぼくに?話しかけている。
何を話しているのかはわからない、いや聞こえない。
でもこの人が、大切な人だってことはわかる。
ふと、その人は後ろを気にし始め、画面を消した。
プツン、と、消える画面。視界?場所?も暗転する。
今度はビルの屋上。女性がいる。
「へぇ、やはりあの噂は本当だったのね」
喋った。次は聞こえるみたいだ。
「うわ、さ?」
ぼくも喋れた。声からして、今のぼくは男性だ。でも、ぼくの声はじゃない。これはぼくじゃない。
「人を殺す歌の噂よ。あなた、今さっきそれを調べたって報告したじゃない。前にそれを調べてこっから飛び降りたあいつの代わりに、さ」
「・・・・・・」
そうだ、このぼくは。歌を聞いた。いや、歌、だったのか?
あれは。あれは・・・。
「あんなの歌じゃない。ただの、ただの悲痛な叫び声だ」
「・・・心がまいっているとそう聞こえるみたいね。で、それに耐えきれなくなって発狂する、っと」
先ほどまで少しざらついていた視界が、クリアになる。
この女性、タバコを吸っていたんだ。
「ねえ・・・あんたはさ、いなくならない・・・よね?」
急に弱弱しさを見せるその女性にぼくは思わず・・・。
「なあ、どうするんだお前は?」
ハッと目を覚ます。ここは・・・。
「どこ?」
「あ?何言ってんだお前?寝ぼけたのか?」
また、場所が移動した?今のぼくはさっきと違う男性?これは、夢?でもあまりにも・・・。
「ここは大学、んで授業終わり。俺と一緒にライブ行くか?って聞いてんだよ今。ほらこいつの」
友人らしき男性から、チラシを貰う。そのチラシには見覚えがあった。
そう、曲名が、先ほど言っていた人を殺す歌と同じなんだ。
「この歌をライブで?」
「ああ。小さなライブ会場だけどよ、客は結構いるみたいで・・・」
「つっ!」
これは夢かもしれない。
それは偶然同じ曲名かもしれない。
でも、ぼくは思わず走り出していた。
扉を開いたその先、場面はまた屋上へと。
「・・・・・・」
柵に腰掛ける女性。最初に見た人とは違う。
だから別の屋上?
「お、なんや来よったんかいな」
「・・・姉さん?!」
確かにそれは、姉さんだった。
「何寝ぼけとん。あんたはうちの友人やろに」
「・・・え?」
「友人やから・・・あんたに風を任せられるんや」
「風・・・」
ぼくの、名前だ。
何かがよぎった。
劇場、いや、舞台セット?複数人が集まっている。
ああ、そうだ。ぼくは、このぼくは、大学の演劇部で起こった事件を解決しようと・・・。
でもそれは、帰宅時間と言う理由で・・・目の前にいるほうの姉さんが犯人では?と言う所で終わってしまった。
いや、正確には犯人ではなかったのだけれど、じゃあ犯人は誰?やっぱりあの人でしょ?と言うみんなからの疑惑の目が、こちらの姉さんに向けられて・・・。
「だから、だから今あなたは・・・っ!」
「・・・なんや、風みたいな喋りかたになったな」
姉さんらしき人はケラケラと笑っている。
そうだ、風と言う人物が疑われた。でもこの姉さんが場を荒らし、犯人だと嘘をついてしまったがために・・・。
「全ての罪を背負い消えようというのですか?!」
「・・・風の事、頼んだでよ」
次の瞬間、叫びは声にならず、伸ばした手も届かなかった。
ハッと、場面が変わる。病室。誰かが眠っている。いやもう、誰かは予想がつく。
でも、隣にいるこの人は・・・。あれ?姉さん?いや・・・。
「・・・風、さん?」
自分の名前を相手に言うなんて、不思議な気分だ。
「・・・・・・あなたには、ばれているんですね」
確かに姉さんの恰好をしているけれど、これはぼくだ。
でも、ぼくとは少し年齢が違う?ような気も・・・?
「お願いします。飛び降りたのは僕と言う事にしてください」
「・・・え?」
「僕は・・・いなくなっても誰にも心配はされない。でも、でも姉さんは沿おうじゃない。姉さんの脚本を楽しみにしている人もいるし、それに。それにっ・・・!」
ああ、この人は・・・。
「姉になって、姉として事件を解決したいのですね?」
「・・・・・・」
彼は無言で頷いた。
ぼくはその手を、しっかりとつかんだ。
「わかりました。一緒に事件、解決しましょう」
「! はい!」
グッと握手を交わした瞬間、また場面が変わった。今度も病室。いや、診察室?
ん?スマホにメッセージが来ている。
『ごめんな、ほんまに』
この口調・・・もしかして。
ぼくは慌ててメッセージを返す。
『何処にいるんですか?』
『どこでもええやん』
意外と返信は早かった。
ならばどんどん行こう。
『話があります、こっちに来て下さい』
『話?患者の事か?』
患者?そう言えばこのぼくの服装・・・白衣だ。医者、なのか?
『あんたの言うてた、歌で患者のトラウマを消すんは、今回でしまいや』
「歌・・・トラウマ?」
ふと、人形を持った男性の姿が過った。
いや違う、女装をしている男性。
なんだっけ?たしか、妹さんを亡くして心を病んで、死んだのは自分で生きているのは妹。そして女装して自分は妹だと、この人形が死んだ兄だと思い込んでいて・・・。
『これまで救った4人、上手くいったのは奇跡やと思う』
考えている間にメッセは続いていた。
『成功したとはいえ、あの人形持った女装した人、歌を聞いてハサミもって暴れて自分のアレ切ろうとしとったやん』
そう言えばそんな事も・・・。
『アレもその人もみんな無事やったけどな、リスクが高すぎるでこれは』
ああ、今はこれを考えている場合ではない。何か、返事をしなければ。
『さっきパソコンのほうにファイル送っといた。患者の症状に合わせた歌詞がいっぱい入っている。もしも続けようって言うならもう止めはしない。勝手にしい』
手が、震える。涙が、溢れる。うまく打てない、伝えられない。
『一言言うんならな、患者ばかり気にかけんと、トラウマと向き合い救うための歌詞を作らなあかんこっちの事も考えてほしかったなって』
『ごめん。待って。とにかく、こっちへ来て』
『ごめんな。もう、疲れたんや』
『待って』
『さよなら』
ねえ、待って。
「姉さん!!」
(゚ω゚)「うぉう!びっくりした!!」
起きた、起きれた。呼吸が、息が、荒くなる。
(゚ω゚)「何やのん?どないしたん?」
姉さんだ、正真正銘の。
「姉、さん?」
(゚ω゚)「うん」
「姉さん!」
(゚ω゚)「おお?」
「姉さん!姉さん!姉さん!!」
それしか言えなかった。
ぼくは、ぬくもりを確かめるかのように、ベッドから飛び上がり姉さんに抱き着いて、暖かさを感じて子供のように泣いた。
(゚ω゚)「なんや、嫌な夢でも見たんかいの?」
「姉さん・・・・姉さん・・・・!」
(゚ω゚)「ほいほい」
姉さんはぼくを抱きしめ返してくれて、頭を撫でてくれる。
ぼくは、思わず問いかけた。
「今ぼくの目の前に居る姉さんは本物ですか?」
(゚ω゚)「・・・全部な、夢やで」
「・・・夢?
(゚ω゚)「せやせや。悪い夢をみとったんや」
(゚ω゚)「姉さんがこうギューってしたるさかいにの、また眠り」
(゚ω゚)「大丈夫、次はもう、そんな夢は見んからな」
「・・・・・・は、い・・・」
疲れ果てて、ぼくはまた、眠りにつく。
(゚ω゚)「おー、泣きつかれて眠るとは、子供みたいやの」
(゚ω゚)「・・・・・・」
「あんたはまだ、根のままでええんやで」
( ゚ω゚)ノ(-ω-、)