『まさかここまで進むとはね』
「……」
『こちらとしても予想外だよ』
「……」
『ああ、そうか。ごめんごめん』
フッと意識がはっきりする。
「…あ、あれ?また、ここ?」
『もう君としてはおなじみだね。でも、この姿では初めてだろうけど』
何もない白い空間。驚いたのは、目の前の人物の姿。
姉さんと僕を足したような姿。
その姿に、嫌悪感のような恐怖を感じた。
『とは言っても、時間がないのには変わらないんだ。この世界は少々腐りかけている。一度腐った物を修復するのは大変だろう?つまりはそう言う事だ』
「……」
あ、この声、何か聞き覚えのある声だなと思ったら、普通のノイジちゃんがいる。通訳、なのかな。
でも、少しほっとした。見覚えのある空間。……ん?
「…ここは、なんなんですか?」
『どこだい?』
「僕が生きている場所です。だって、おかしいでしょ。それが常識から気付かなかった。なんで、ノイジちゃんはここにいるんですか?」
『どういうことだい?』
「…そんな、そんな見た目の人がいるなんて、ありえない。よくよく考えれば、アリスさんのところのココロニャちゃんも…猫耳の生えた女の子なんて、現実世界にはいない」
『…ならば?』
「ここは…現実では、ない?」
『……』
静かに目をつぶる、ユウさん…なのかな?この人。
『もしもそうならば、現実世界にノイジはいないという事だ』
「…そう、ですね」
『君にとってノイジはどんな存在だ?』
「え?……妹、みたいな感じですかね」
『では、ノイジのいない世界はどう感じる?』
「……寂しい、ですね。」
『ならばこの世界は?』
「…もし現実じゃないとしても、親しい人や愛する人がいるから幸せだ。ここが現実だ。…ってやつですか?」
『……』
その人は、問いかけには答えない。
『本来、種は1つだった。だが、失敗して種は2つになった』
「それが、僕と姉さん?」
『……種は1つでいい』
「だから僕には何も言わないと?」
『…だが不必要な種は必要な種にとって不可欠な存在になった』
「……」
『種を砕いて栄養素にすればいい。そう、考えた』
「…………うーん、元々1つだったものが2つになって、1つにしようと吸収、ではなくていらないほうを消そうとした。
でもいらないほうが必要になったから、何とかして再利用しようとしている、って感じなのかな…」
『……』
推測があってるのかはわからない。けれど、さすがにいらないほうとして考えるのは…。
『いらないほうとして考えないほうがいい』
「え?」
『結局は、どちらも世界に必要な存在となったのだから』
「……そう、ですか」
『……何度もゲームをリセットしたらバグった。って言う例えはわかるかい?』
「え?あ、わかります」
『君の力はそのような物。本来は君が持つべきはずじゃなかった』
「君がってことは…ほかの人の力だったんですか?」
『……』
明らかに顔が動揺している。口を滑らせた、ってやつなのかなこれ。
『そもそも話に脈絡がないと思っているだろう。それは世界もバランスが少々崩れているから、だと思ってくれ』
「…はい。えっと、多分風邪をひいて熱で朦朧として、うまく会話が出来ない。って感じなんですかね。世界自体が」
まさにそれだ、と言わんばかりの顔をされた。
けれど少し恥ずかしかったのか、先ほどの真面目な顔にすぐ戻った。
『…君は気付いているのは?』
「……だいたいわかってますよ。記憶の消去と、普通の日々の繰り返しをしているんでしょう?ただ、それの理由と、この世界が現実なのか空想なのか、それはわかりませんが…」
『……』
「僕が見る夢?には、大体いつも3人…いや、2人が確定で登場している。
姉さんらしき人と、誰か、もう1人男性が。僕はその男性に同調していた。
でも、それが僕だって限らない。
姉さんらしき人は本当に姉さんで、男性はユウさんで…僕はたまに登場するサブキャラ?じゃないんですか?
そして、あの夢のうちどれかが、実際にそのような配役で起こった現実の事なんじゃないですか?
…あなたは……僕は、そこにいますか?」
『……』
答えない、それもある意味答えのような気もするけれど…。
僕はユウさんと同じく目を伏せて話をつづけた。
「…UTAUって、なんなんでしょうね」
『……?』
「僕はUTAUです。それは理解している、でもそれって何なんでしょう。職業?人種?それとも趣味?よくわかりません」
『…それは難しい質問だ』
「ですね。でも…楽しいですよ。少し恥ずかしいけど、歌えて楽しいです。けれどutauだから当たり前、ってわけでもないんですね。中々歌わせてもらえない時もありますし」
『…ごめん』
「あ、別にユウさんが姉さんばかり贔屓している―って話じゃないですよ?」
『……』
落ち込んだような感じがする。表情豊かな人なんだな。
『…駄目だな、マスター、管理者なのに。これすらもまともにできないなんて…』
何か、愚痴りだしているような気が。
『うーむ、設定がまずかったか?登場する速さとか。しかしなぁ…』
1人反省会のような何かが始まっている…。
『あ、ごめん』と、僕に気付いたユウさんが謝ってくれた。
もしかして、こっちが素?
「いえいえ、大丈夫です。でも……先ほどのたとえでいう、熱での朦朧がひどそうなので、今回はやめておきます?」
『……君は、それでいいのかい?』
「はい。「あ、これ考えても答え出ないやつだ」って思ったらスッキリしました。ゲームでいう、フラグが立っていないとか、推理するには証拠が足りていないってやつですね?」
『…ははっ』
あ、初めて笑った。…やっぱりこの人、姉さんにも僕にも似ている。
「…きっと、また僕の記憶は消されてこの世界は繰り返すのでしょう」。でも僕はいつかまたきっと思い出し、あなたとの話を望みます」
『……』
「もちろん、くらだない日常の雑談もしましょう。あなたの好きなものとか」
『!そ、そうだな…』
今度は嬉しそう、でいいのかな?
「……あなたとも、友達になりたいですよ。も、もちろんあなたがよければの話ですが…」
『…すべてが終わったら、よろしく頼むよ』
「は、はい!」
……なんだろう、なんていうか、自分でもわかる。情緒不安定だ。
悲しくなったり、楽しくなったり、不安になったり、嬉しくなったり。これ、ユウさんの力、なのかな…?
…あれ?ユウさん、どうしたんだろう?急に上を見上げて。上?……何もないと思うけれど、何か見えてるのかな?
『……すまない、少々用事が出来てしまった。また今度、頼むよ』
「はい」と返事をする間もなく、僕の視界は何かで覆われたような感覚の後、途切れた。
そして目が覚めれば、いつもの部屋。いつものベッド。もう省略するけど聞いた事ある姉さんの台詞。
僕は前も多分こんな事言ったはずだ、と思う言葉で返す。
ああ、今回僕はどれだけの出来事を、覚えていられるだろうか…。