春、桜が舞い散る季節。
少し用事があったので、姉音ウトが管理人をしているアパートへと行く。
アパート内、紅水りんじにあった。りんじがこちらに会釈する。僕も会釈する。
ウトの場所を聞いたら、中庭に居る、とのことで中庭に。
桜の樹の下に居た。落ちてくる桜を受け止めるかのように手を差し出すウト。その儚くも美しい姿に少々見惚れていた。
こちらがハッとした頃、ウトも会釈をしてきたので返す。
「あ、ユウさん。何か、用事ですか～？」
「あ、ちょっと荷物を届けに。これ、ココロナさんの畑の野菜です」
「わあ、ありがとうございます～。美味しいんですよね～、ココロナさんのところのお野菜」
ドスッと持っていた段ボール箱をいったん下に降ろす。
「・・・桜、綺麗ですね」
ふと、桜の樹を見上げる。
「綺麗でしょ～。去年はなかったんですよ？あ、時には中庭もなかったり～」
「・・・・・・」
ほんわかした中に隠していない敵意が見える。
ウトは、どこまで覚えているのだろうか。
「あ。何か話します～？今の私はいろいろ覚えてますよ～」
「・・・本当に、イレギュラーですね」
「それがこの世界観における私ですから」
「・・・・・・」
「種は1つと言えど、その種を持っている人はたくさんいる。だとしたらあれれ？この世界はメインストーリーなのでしょうか？それともサブストーリーなのでしょうか～？」
「・・・何をそんなに怒っているのですか？」
「・・・・・・」
姉音ウトに関しては、謎が多い。このアパートの事はもちろん、しゃっくりさんと言う謎の幽霊に対しても。
「あなたが所謂この世界の管理人だとするならば～、あなたは私を知っているのでは～？」
「・・・心までは理解できない」
「そうですか～。心、心ですか～。では私の心はリセットによりバグったとか？」
「・・・え？」
「リセットボタン連打しすぎてわけがわからなくなった的な～」
「・・・あなたは、どこまで」
「あ、安心してください。みんなに危害を加えなければあなたのシナリオには手出ししません」
「逆に言えば危険があれば手を加えるという事ですね」
「そうなりますね～」
「あなたのその敵意は過去に、誰かに危害があったからですか？」
「・・・ねむい～」
先ほどのビシビシ伝わる敵意はどこへやら。一転して眠さを装いあくびをしている。
「まー、あれですよあれ～」
「あれ？」
「姉音ウトはたくさんいる、私はそのうちの1人である。だから～、少々オリジナルの設定と違っても許してくださいよ～、ね？
私は姉音ウトであり、姉音ウトではないのですから～」
「・・・」
「そもそもこの世界はなんなのでしょうね？
ゲームの世界？それなら壁がバグっているはず？
精神世界？なら私はもっと自由に動けないかも？
夢の世界？もしそうなら私は雲の上で寝てみたい。
この世界が何なのか、今の私にはわかりませんが・・・1つだけ質問いいですか？」
「なん・・・でしょう、か？」
フワッと、桜が風に舞う。まるで、ウトを包むように、
「もしもここが現実世界でないと言うならば、もしも現実世界があるというのならば、姉音ウトはその世界でも生きていますか？人として」
「・・・・・・」
「あ、ウトさんです！それに、お野菜です！！」
「あ、りぜちゃん～」
中庭に紅水りぜが来た。
野菜の入った段ボールを引っ張るが、持ち上がらないようで。
ウトと共に中庭から出るようだ。
少々卑怯な方法を使ってしまっただろうか。
2人とすれ違う時、ウトがこっそり耳打ちをする。
「あなたは、こういう風に逃げるんですね～。まあ、また今度～」
「・・・はい」
姉音ウトは、苦手な存在だ。