ハッっと気づく。
さっきまでの空間じゃない。と言うか…最初のあの白い空間。煌びやかな空間は消えていた。
一体何が?とあたりを見渡すと、近くに吹っ飛ばされたのか、胎児のような恰好で倒れているトーリさんがいた。
「大丈夫ですか?!」と駆け寄って、声をかけて揺さぶってみても、苦しそうにするだけで返事はない。
どうしようか、とオロオロしていると、後ろに気配。どうやら、仰向けに倒れていたテミィさんが起き上がってきたようだ。
この威圧感……怒っている?
「……儂に…干渉してくるとはのぅ…。これは、やっかいじゃ……グフッ」
え?最後ちょっとふざけたのでは?なんてツッコミはやめておこう。
「えっと、状況の説明を…」
「お、そうじゃの」
やっぱりさっきの傷ついた感じは演技だったんだ…。あ、トーリさんを蹴り起こしている。いいんだろうかそれで。
「うーむ、説明してほしいが、トーリは苦しそうじゃの。では儂が説明するか」
「…はい」
不安しかないけど仕方ない。たぶんこの状況は僕のせいだし、流れに身を任せた方がいいだろう。
「簡単に言えばーえーと……種に活力剤といい土?をやって強烈なソーラービームを打ち込んで急成長を狙ったってやつじゃ」
「……まあ、僕の力の急成長と言う奴ですか?」
「そう、それじゃそれ!いや~、まさか風のほうが陰で暁が陽とはの~、意外や意外!」
「あの…1人納得して笑っていないで教えてほしいんですけど…」
「…ふむ、あれじゃのう、ティッシュ箱があるとする」
「…はい?」
「風は無意識的に、ティッシュ箱のティッシュを全部出してしまうのじゃ。
だけど周りは誰も気づかない。それは何故か?姉の暁が素早くそれを片付けているからじゃ」
「……はい」
「……そしてそれは、感情が大きく作用されます」
トーリさんが口を開いた。まだ若干苦しそうだけど…。
「あなたが強く消えればいいと思ったものは、消える。だけどそれはきっと無意識的で、あなたは悲しむ。
だから姉の暁さんが、あなたが気付かないうちに最初の状態に、それを戻す。
現に、今もあなたは無意識的にテミィ様を襲った」
「え?」
「トーリはモヤシっ子って言う奴じゃからのう。儂を助けようとして簡単に吹っ飛ばされてしまったわ」
「……すみません」
「良い良い。しかしここでは干渉外じゃからのう……片づけは頼んだぞ」
「はい」
深々と頭を下げるトーリさん。僕の頭は混乱している。
「……つまり、僕は無意識的に人を傷つけ、姉さんがそれをなおしているのですか?」
「…半覚醒、と言えばいいのでしょうか、そういった感じです」
「え、これで半分…?!じゃあ完全なら僕はいったい…そもそもあなた達は何が目的で…!?」
ゴクリと何かを飲む音。テミィさんがさっきの水を飲んだのかな?水、どうやって飲んで…いやそんなこと考えている場合じゃない。
「儂は花としてお前様に興味が…いや、暇を弄ばした神々の遊びと言うほうが良いか」
「神、なんですか?」
「知らぬわ!」
「えぇ…」
自由だ。この人本当に自由だ…。
「種が2つならば、その2つを1つにするとどうなるのか。きっとそれはあいつにとって、嫌な事じゃろうて」
「あいつ?」
「あ、儂が神かどうかはあれじゃよ。一つの設定をドーンと出して、あえて掘り下げないのがいいと言う奴じゃ」
「??」
「例えばそこに絶対的悪がいる。だけどそれは悲しき悪。だったらどうする?とかそんな話じゃ」
「…すみません、よくわからないです」
「同情なんかはいらぬ!とか、そ、そんな目で見るな!とか、そんな事は考えていない!とかなんとか、まあそれを知ったやつらのイメージの押し付けが嫌いなんじゃ」
「わかるような…わからないような……」
ふーっと、大きく息を吐いたのはトーリさん。
高笑いをしているのはテミィさん。
何事かと思ったら、気付いた、僕の体に黒い煙のようなものが纏わりついている事を。
「……これ、あなたのせいですか?」
「そうじゃな、すまん!」
「…謝った、ってことは想定外ですか」
「そうじゃそうじゃ。どうやら、半覚醒した力が漏れたようじゃのう…」
トーリさん、あれは何をしているんだろう?テミィさんを心配しているんだろうか。
心配しているんだろうか。心配…姉さんは、何をしているんだろうか。
そもそも、僕ってなんだろうか。
楓風って、なんだ?
楓暁って、なんだ?
僕の姉。僕の姉。本当に?たまに見る夢で、問いかけてくる。
『これは違う』って。
でもこれが、僕にとっての本当なんだ。
もしこれが違うのなら、僕は何を信じればいい。
僕は何を……。
「む…飲まれ始めたか……」
ノイズが、目の前に走る。何度も。何度も。何度も…。
「…トーリ、構えなくても良い。あいつが来よった」
口が、口の中が重い。軽いけれど重い。何か詰まっているようで、喋れない。
「風、いやはや、すまんかった。反省はしておる。じゃがの、逃げてはならんぞ。
風、暁、マスター。それぞれの名前を…」
その先は、聞こえなかった。
ひどく重く気分の悪い空気に包まれながら、大きなノイズの後に場面は変わった。